はじめに:なぜ今、理想のプロダクトデザイナー像を言語化するのか
プロダクトデザイナーという職種の役割が、ここ数年で急速に拡大し、変化していると強く感じています。単に美しい画面、使いやすいUIをデザインするだけでは足りない。そんな場面が増えてきたように思います。
デザイナーのスキルセットが「狭義のデザイン(UI/UXの品質)」と「広義のデザイン(戦略・組織・課題発見)」に分類されて語られる機会が増えてきており、自分が漠然と感じていたデザイナーの役割の変化がすっきりと整理され、自分が目指すべき姿が、ぼんやりとした輪郭から、はっきりとした形になっていくのを感じました。
今、改めて「私はこんなプロダクトデザイナーでありたい」という理想像を、今の自分自身の言葉で書き留めておこうと思います。
私の基盤:ユーザー体験の品質を追求する「作り手」であること(狭義のデザイン)
まず大前提として、私は、ユーザー体験の品質を徹底的に追求する「作り手」でありたい。そう考えています。
どれだけ素晴らしい戦略を描けたとしても、最終的にユーザーの手に触れるプロダクトの品質が低ければ、価値を届けることはできません。
ユーザーへの深い共感とリサーチに基づき、0.1秒のレスポンス、1ピクセルのズレ、ボタン一つの文言にまでこだわる。また、UIの標準パターンを深く理解した上で、複雑なUIの状態や分岐を緻密に設計し、アイデアを素早くプロトタイプにして検証を繰り返す。そうした細部への執着とも言えるこだわりと実行力が生み出す「使いやすさ」「心地よさ」こそが、プロダクトデザインの根幹だと信じています。
この「狭義のデザイン」における専門性と実行力があってこそ、その先のステップに進める。これは、私がデザイナーとして決して譲れない基盤です。
私の視座:プロダクトの成功全体を見据える「ストラテジスト」であること(広義のデザイン)
その上で、私の視座は「画面を作ること」で終わらせたくありません。プロダクトの成功全体を見据える「ストラテジスト」としての役割を果たしたいと考えています。
なぜ作るのか(Why)
私は、プロダクトのビジョンや事業戦略、ロードマップの策定といった「上流」から積極的に関わっていきたいです。
作ることが決まった仕様書を受け取るのではなく、「そもそも、なぜこれを作るのか?」「本当に解決すべき課題は何か?」を問い続け、目の前にある複雑な課題を構造化して整理し、ビジネスの成功に直結するデザインを提案できる存在でありたいです。
どう広げるか(連携・浸透)
優れたデザインも、組織に理解され、受け入れられなければ、世に出ることはありません。
私は、デザイン組織の枠を超え、ビジネスサイドやエンジニアリングチームと日常的に密な連携を取るようにしています。
デザインの価値や意図を組織全体に浸透させ、プロダクトに関わる全員が同じ方向を向いて進めるよう働きかけること。それも、私の重要な役割だと考えています。
特に、プロダクトが「10→100」へと拡大するフェーズでは、目先のUI改善の先に潜む、より本質的で複雑な課題解決に挑む覚悟が必要です。
私がさらに大切にしたい「良いデザイナー」の条件
私が理想とするプロダクトデザイナー像を実現するために、さらに大切にしたい姿勢(スタンス)がいくつかあります。
ビジネスと技術の「翻訳者」であること
プロダクト開発は、しばしば三者の想いが交差する場所にあります。
- 「こう使いたい」というユーザーの要望
- 「こう売りたい」というビジネス(事業)の要求
- 「ここまでできる」という技術的な制約
私は、これら三者の言語を深く理解し、時に対立するように見える想いを解きほぐし、全員が納得できる答えを一緒に見つけ出す「翻訳者」でありたい。
デザインとは、まさしくこの「翻訳」そのものだと考えています。
スムーズな実装を実現する「協業者」であること
デザインは「絵に描いた餅」で終わらせてはいけない。私は、エンジニアリングへの理解を深め、どうすれば実現できるかを考え抜き、仕様に落とし込みます。
デザインシステム(共通コンポーネントやルール)をエンジニアと協力して整備・運用し、開発効率の向上と、プロダクト全体の一貫性を両立させます。
また、実装されたものがデザインの意図を正確に反映しているか、実装レビューにも積極的に参加したいです。
単に「デザイン通りか」を確認するだけでなく、「なぜこのデザインなのか」という背景を共有し、より良い実装方法を共に探る「協業者」でありたいです。
デザインの価値を伝える「伝道師」であること
「なんとなく良い」だけでは、組織は動きません。
「なぜこれが最善のデザインなのか」を、ロジックとデータ(あるいはリサーチ結果)に基づいて明確に説明できる「言葉にする力」を磨き続けます。
経営層、エンジニア、セールス、カスタマーサポートなど、専門性の異なる他職種のメンバーを巻き込み、デザインの意図と価値を明確に伝える。そして、建設的な議論をリードし、チームが納得して意思決定できるよう力強く推進する。そんな「伝道師」としての役割を担いたいです。
すべてのユーザーに届ける「誠実さ」を持つこと
プロダクトは、特定の人だけのものではありません。年齢、身体障害の有無、利用環境に関わらず、誰もが情報にアクセスし、サービスを利用できる「アクセシビリティ」への配慮を、特別なことではなく当たり前のスキルとして持ち続けます。
また、短期的な利益のためにユーザーを欺く(ダークパターン)のではなく、ユーザーに真の価値を届け、長期的な信頼関係を築くための高い倫
理観を持っていたい。プロダクトとユーザーに対し、常に「誠実」でありたい。
常に学び、問い続ける「探求者」であること
最後に、そしてとても大切にしたいのが、現状維持を良しとしない姿勢です。
現状の仕様やデザインを当たり前だと思わず、「本当にこれでユーザーは幸せか?」「もっと良い方法はないか?」と、常に問い続ける「探求者」でありたい。
新しいデザイントレンドやツールを追うだけでなく、心理学、マーケティング、テクノロジーなど、デザインの周辺領域の知識も貪欲に学び続ける柔軟な姿勢と好奇心を持ち続けます。
目指すは「プロダクトの成功にフルコミットする」デザイナー
私が目指すのは、「狭義のデザイン」という揺るぎない専門性を基盤に持ちながら、「広義のデザイン」という越境力を発揮し、さらに「人と協業する力」「言葉にする力」「誠実さ」を兼ね備えたデザイナーになることです。
それは、単なる「作業者」ではなく、プロダクトの成功、ひいてはビジネスの成功にフルコミットする「当事者」である、ということです。
そんな理想の姿に少しでも近づけるよう、私はこれからも学び、問い、作り続けたいと思います。