Webアクセシビリティとは、高齢者や障害者を含むすべての人が、Webサイトで提供される情報やサービスにアクセスし、利用できるようにすることです。
近年、Webアクセシビリティへの関心は高まっており、フロントエンド開発者にとって、アクセシブルなWebサイトを構築するための知識は必須となっています。
この記事では、フロントエンド開発者が知っておくべきWebアクセシビリティの基本について解説します。
具体的なコード例を交えながら、アクセシビリティの重要性、実装方法、よくある間違い、支援技術への影響などを説明します。
なぜWebアクセシビリティが重要なのか?
Webアクセシビリティは、単に一部の人々にとっての使いやすさの問題ではありません。
倫理的な観点、法的観点、ビジネス的な観点からも、Webアクセシビリティは重要です。
- 倫理的な観点: すべての人が平等に情報やサービスにアクセスできるべきであり、Webサイトはそれを実現するための重要なツールです。
- 法的観点: 多くの国で、Webアクセシビリティに関する法律が制定されています。
- ビジネス的な観点: アクセシブルなWebサイトは、より多くのユーザーにリーチし、顧客基盤を拡大することができます。
Webアクセシビリティは、様々な障害を持つ人々にとって重要です。
視覚障害者はスクリーンリーダーを使用してWebサイトを閲覧し、聴覚障害者はキャプションや字幕を利用して動画を視聴します。
運動障害のある人は、マウスの代わりにキーボードや音声認識を使用してWebサイトを操作します。また、認知障害のある人は、シンプルなレイアウトや明確な指示によってWebサイトを理解しやすくなります。
アクセシビリティの基本
Webサイトのアクセシビリティを向上させるには、様々な要素を考慮する必要があります。
ここでは、フロントエンドエンジニアが特に注意すべき基本的な項目と、それらをどのように実装するか、そしてよくある間違いについて解説します。
1. セマンティックHTML
セマンティックHTMLとは、HTML要素の意味を明確に示すようにマークアップすることです。
例えば、見出しには<h1>
~<h6>
、段落には<p>
、リストには<ul>
や<ol>
など、適切な要素を使用します。
なぜ重要なのか?
セマンティックHTMLは、スクリーンリーダーなどの支援技術がWebページの構造を理解し、ユーザーに情報を正しく伝えるために不可欠です。
例えば、スクリーンリーダーは<h1>
要素を認識することで、それがページの主要な見出しであることをユーザーに伝えます。また、セマンティックHTMLはSEOにも影響があります。
検索エンジンは、セマンティックHTMLを使用してWebページの内容を理解し、検索結果に反映させると言われています。
実装方法
- 見出しには
<h1>
~<h6>
要素を使用する - 段落には
<p>
要素を使用する - リストには
<ul>
、<ol>
、<li>
要素を使用する - テーブルには
<table>
、<tr>
、<td>
要素を使用する - フォームには
<form>
、<label>
、<input>
、<button>
要素を使用する
よくある間違い
- 見出しのレベルを順番通りに使用しない(例:
<h1>
の次に<h3>
を使用する) div
要素やspan
要素で構造を表現する- テーブルをレイアウトのみに使用し、セマンティックな構造を無視する
支援技術への影響
スクリーンリーダーは、セマンティックHTMLに基づいてWebページの内容を解釈します。
セマンティックHTMLが正しく使用されていない場合、スクリーンリーダーは情報を正しく伝えられず、ユーザーはWebページの内容を理解することが困難になります。
2. フォーム
フォームは、ユーザーがWebサイトとやり取りするための重要な要素です。
アクセシブルなフォームを設計することで、すべての人が容易に情報を入力し、送信することができます。
なぜ重要なのか?
フォームは、ユーザー登録、商品購入、お問い合わせなど、様々な目的で使用されます。
アクセシブルなフォームは、すべての人がこれらの操作をスムーズに行えるようにするために重要です。特に、障害のあるユーザーは、フォームのエラーを理解したり、気づいたりするのが難しい場合があるため、アクセシブルなエラー処理が重要です。
実装方法
- 各フォーム要素に
<label>
要素を関連付ける - ラベルテキストは明確で簡潔にする
- フォーム要素を論理的な順序で配置する
- エラーメッセージは分かりやすく表示する
- 入力フィールドに適切な
type
属性を設定する(例:email
、tel
) - フォームのバリデーションエラーは、スクリーンリーダーで読み上げられるようにし、エラーが発生したフィールドにフォーカスを移動する。
コード例
HTML
<label for="name">名前:</label>
<input type="text" id="name" name="name">
<label for="email">メールアドレス:</label>
<input type="email" id="email" name="email">
よくある間違い
- ラベルを省略する
- ラベルとフォーム要素の関連付けが不適切
- エラーメッセージが分かりにくい
- 入力フィールドの
type
属性が不適切
支援技術への影響
スクリーンリーダーは、ラベルを読み上げることで、フォーム要素の目的をユーザーに伝えます。
ラベルが省略されたり、関連付けが不適切な場合、スクリーンリーダーはフォーム要素を正しく認識できず、ユーザーは情報を入力することが困難になります。
3. キーボードナビゲーション
キーボードナビゲーションとは、キーボードのみでWebサイトを操作できるようにすることです。
マウスが使えないユーザーや、キーボード操作を好むユーザーにとって、キーボードナビゲーションは不可欠です。
なぜ重要なのか?
マウスが使えないユーザーは、キーボードのみでWebサイトを操作する必要があります。
キーボードナビゲーションが適切に実装されていない場合、これらのユーザーはWebサイトを利用することができません。
実装方法
- すべてのインタラクティブ要素(リンク、ボタン、フォーム要素など)にキーボードフォーカスを当てることができるようにする
- フォーカスの順序を論理的にする
- フォーカスされている要素を視覚的に明確にする
よくある間違い
- JavaScriptでキーボード操作を無効にする
- フォーカスの順序が illogical
- フォーカススタイルを削除する
支援技術への影響
キーボードナビゲーションが不適切な場合、スクリーンリーダーやキーボード操作支援ソフトウェアを使用するユーザーは、Webサイトを操作することが困難になります。
キーボードナビゲーションのテスト
キーボードナビゲーションが正しく機能していることを確認するために、様々なブラウザでテストすることが重要です。各ブラウザは、キーボードフォーカスを異なる方法で処理する場合があります。
4. モーダル
モーダルは、Webページ上にオーバーレイ表示されるウィンドウです。
モーダルは、ユーザーの注意を引き付けたり、追加情報を提供したりするために使用されます。
なぜ重要なのか?
モーダルは、ユーザーの操作を中断させる可能性があるため、他のUIに比べアクセシビリティに配慮した設計が重要です。
モーダルダイアログ内でフォーカスをトラップすることは、ユーザーが誤ってモーダル外のコンテンツを操作してしまうのを防ぐために不可欠です。
これは、スクリーンリーダーユーザーにとって特に重要です。なぜなら、モーダル外のコンテンツを操作してしまうと、混乱を招き、方向感覚を失ってしまう可能性があるからです。
実装方法
- モーダルが開かれたときに、フォーカスをモーダル内の最初の要素に移動する
- モーダルが開かれている間は、フォーカスをモーダル内に閉じ込める
- モーダルを閉じるための明確な方法を提供する(例: Escキー、閉じるボタン)
- モーダルの背景を半透明にすることで、ユーザーがモーダルが開かれていることを認識できるようにする
- Accessible Rich Internet Applications (ARIA) 属性や
Dialogタグ
を使用して、モーダルの役割と状態を明示する aria-hidden="true"
を使用して、モーダルが開いている間、背景のコンテンツをスクリーンリーダーから隠す。
コード例
HTML
<dialog aria-modal="true" aria-labelledby="modal-title">
<h2 id="modal-title">モーダルのタイトル</h2>
<p>モーダルの内容</p>
<button>閉じる</button>
</dialog>
よくある間違い
- モーダルが開かれたときに、フォーカスが移動しない
- モーダルが開かれている間、フォーカスがモーダル外に移動できる
- モーダルを閉じる方法が分かりにくい
支援技術への影響
スクリーンリーダーは、ARIA属性を使用してモーダルの役割と状態を認識します。
ARIA属性が正しく使用されていない場合、スクリーンリーダーはモーダルを正しく認識できず、ユーザーはモーダルを操作することが困難になります。
5. 画像の代替テキスト
画像の代替テキストとは、画像の内容をテキストで説明したものです。
視覚障害のあるユーザーは、スクリーンリーダーを使用して画像の代替テキストを読み上げてもらうことで、画像の内容を理解することができます。
なぜ重要なのか?
画像の代替テキストは、視覚障害のあるユーザーがWebページの内容を理解するために不可欠です。
実装方法
img
要素のalt
属性に、画像の内容を簡潔に説明したテキストを記述する- 装飾的な画像には、空の
alt
属性 (alt=""
) を指定する - 図表やグラフなど、複雑な画像の場合は、
alt
属性で詳細な説明を提供するか、longdesc
属性を使用して別のページに詳細な説明を記述する。
コード例
HTML
<img src="cat.jpg" alt="かわいい猫">
よくある間違い
alt
属性を省略するalt
属性に画像のファイル名や「画像」などの無意味なテキストを記述する
支援技術への影響
スクリーンリーダーは、alt
属性の内容を読み上げることで、画像の内容をユーザーに伝えます。alt
属性が省略されたり、無意味なテキストが記述されている場合、スクリーンリーダーは画像の内容を正しく伝えられず、ユーザーはWebページの内容を理解することが困難になります。
6. スタイル設定
CSSを使用したスタイル設定は、Webサイトのアクセシビリティに大きな影響を与えます。
なぜ重要なのか?
適切なスタイル設定は、Webサイトの視認性、操作性を向上させ、すべての人が快適に利用できるようにするために重要です。
実装方法
- フォーカス インジケーター: キーボードフォーカスが当たっている要素を視覚的に明確にする。(例:アウトラインで強調表示する)
- インタラクティブな要素: リンクはリンクのように見え、ボタンはボタンのように見え、簡単に操作できることを確認します。
- インタラクティブ性フィードバック: ホバー、アクティブ、無効の状態を明確に提供します。
- 色のコントラスト: 要素を区別するために十分なコントラストを使用します。テキストと背景の色のコントラスト比を十分に確保することで、弱視のユーザーがテキストを読みやすくする。
- 色: 色覚異常のあるユーザーのために、テキストやアイコンと色を組み合わせます。
- レスポンシブデザイン: 様々なデバイスでWebサイトを快適に閲覧できるように、画面サイズに合わせてレイアウトを調整する。カスタム フォント サイズとズームをサポートします。
- モーションの削減: アニメーションや視覚効果は、一部のユーザーに不快感を与える可能性があるため、モーションの削減オプションを提供する。モーションに敏感なユーザーのために、モーションを減らすか無効にします。
- フォントと間隔: 特に失読症のユーザーのために、十分な間隔をとった明確なフォントを使用します。
- CSSのアクセシビリティ:
display: none
やvisibility: hidden
などのCSSプロパティは、スクリーンリーダーにコンテンツを非表示にする効果があります。これらのプロパティを使用する場合は、スクリーンリーダーユーザーにも情報が伝わるように、代替手段を提供する必要があります。
よくある間違い
- フォーカスインジケーターを削除する
- レスポンシブデザインに対応していない
- モーションの削減オプションを提供しない
支援技術への影響
フォーカスインジケーターが明確でない場合、キーボードナビゲーションを使用するユーザーは、現在フォーカスが当たっている要素を把握することが困難になります。
レスポンシブデザインに対応していないWebサイトは、モバイルデバイスやスクリーンリーダーを使用するユーザーにとって利用しにくくなります。
モーションの削減オプションがない場合、アニメーションや視覚効果によって、一部のユーザーはWebサイトの内容を理解することが困難になります。
7. ARIA属性
ARIA (Accessible Rich Internet Applications) 属性は、HTML要素にアクセシビリティに関する情報を追加するための属性です。
HTMLだけでは表現できないアクセシビリティ情報を提供することで、支援技術との連携を強化します。
ARIAは、アクセシビリティツリー内で要素の状態とプロパティを変更することで、支援技術がコンテンツをユーザーにどのように提示するかを変更します。
なぜ重要なのか?
ARIA属性は、HTMLだけでは表現できないアクセシビリティ情報を提供することで、支援技術との連携を強化します。
しかし、ARIA属性を過度に使用したり、不必要に使用したりすると、アクセシビリティの問題が発生する可能性があります。
ARIA属性は、セマンティックHTMLでアクセシビリティを確保できない場合にのみ使用するようにし、可能な限りセマンティックHTMLを優先する必要があります。
ARIAの3つの要素
- 役割(role): 要素の役割を定義します。例えば、
role="button"
は要素がボタンであることを示します。- ランドマークの役割: フォームやアプリケーションなど、Webページのさまざまな部分を識別することで、支援技術ユーザーのナビゲーションを支援します。
- ドキュメントの役割: リスト、画像、見出しなど、ページのコンテンツ構造を記述するために使用されます。ページ全体のコンテンツを記述するのにはあまり役立ちません。
- ウィジェットの役割: 主に、ボタン、アラート、チェックボックスなどのJavaScriptベースのユーザーインターフェースを記述するために使用されます。
- 抽象的な役割: 基盤の抽象的な役割など、他のWAI-ARIA役割の基盤となる役割を形成します。
- プロパティ: 要素に関する追加情報を提供したり、要素の動作を変更したりします。例えば、
aria-label
は要素のラベルを指定します。 - 状態: 要素の現在の状態を示します。例えば、
aria-expanded="true"
は要素が展開されていることを示します。
実装方法
role
属性を使用して、要素の役割を明示する(例:role="button"
、role="alert"
)aria-*
属性を使用して、要素の状態やプロパティを記述する(例:aria-expanded="true"
、aria-labelledby="label-id"
)- ARIA属性は、小文字とハイフンを使用して記述する(例:
aria-label
)。 - ARIA属性の値は、二重引用符で囲む(例:
aria-label="閉じる"
)。 - 状態を表すARIA属性には、ブール値(
true
またはfalse
)を使用する(例:aria-expanded="true"
)。 - プロパティを表すARIA属性には、数値またはID参照を使用する(例:
aria-level="2"
、aria-labelledby="label-id"
)。
コード例
<button aria-expanded="false" aria-controls="menu">メニューを開く</button>
<ul id="menu" aria-hidden="true">
<li>メニュー項目1</li>
<li>メニュー項目2</li>
</ul>
よくある間違い
- ARIA属性を誤って使用したり、不必要に使用したりする
- ARIA属性だけでアクセシビリティを確保しようとする(セマンティックHTMLと併用することが重要)
- 既にネイティブのセマンティクスを持つ要素にARIA属性を使用する(例:
<button>
要素にrole="button"
を使用する)。
支援技術への影響
ARIA属性は、スクリーンリーダーなどの支援技術がWebページの要素を正しく認識し、ユーザーに情報を伝えるために役立ちます。
ARIA属性が正しく使用されていない場合、支援技術はWebページの内容を正しく解釈できず、ユーザーはWebページを操作することが困難になります。
モバイルアクセシビリティ
モバイルデバイスは、小さな画面とタッチ入力という特性から、アクセシビリティに関して独自の課題があります。
モバイルアクセシビリティを確保するためには、以下の点に注意する必要があります。
- タッチターゲットのサイズ: タッチターゲットは、ユーザーが指で正確にタップできる大きさにする必要があります。
- レスポンシブデザイン: モバイルデバイスの画面サイズに合わせて、Webサイトのレイアウトを調整する必要があります。
- ズーム機能: ユーザーがWebサイトを拡大して見ることができるように、ズーム機能を有効にする必要があります。
認知アクセシビリティ
認知アクセシビリティとは、大なり小なり認知障害を持っている人がWebサイトを理解しやすくするためのものです。
認知アクセシビリティを向上させるためには、以下の点に注意する必要があります。
- 明確な言語: 専門用語や複雑な言い回しを避け、分かりやすい言葉を使用する。
- 一貫したレイアウト: Webサイトのレイアウトを一貫させることで、ユーザーが情報を見つけやすくする。
- 最小限の distraction: アニメーションや視覚効果など、ユーザーの注意をそらす要素を最小限にする。
アクセシビリティチェックツール
Webサイトのアクセシビリティを評価するために、様々なチェックツールが提供されています。
- ブラウザ拡張機能: ブラウザに組み込まれており、簡単にアクセシビリティチェックを実行できるツール (例: axe, WAVE)
- オンラインバリデーター: WebサイトのURLを入力することで、アクセシビリティチェックを実行できるツール
- 自動テストフレームワーク: Webサイトのアクセシビリティを自動的にテストするためのフレームワーク (例: Pa11y, axe-core)
これらのツールを使用して、Webサイトのアクセシビリティ問題を検出し、修正することができます。
具体的には、以下のようなツールがあります。
- Lighthouse: Google Chromeに組み込まれている開発者ツール
- axe: Deque Systemsが提供するアクセシビリティテストツール
- WAVE: WebAIMが提供するアクセシビリティ評価ツール
参考になるウェブサイトやリソース
- WCAG (Web Content Accessibility Guidelines): Webアクセシビリティに関する国際的なガイドライン
- ウェブアクセシビリティ基盤委員会:日本語でアクセシビリティについてわかりやすくまとめてある
- ウェブアクセシビリティ 導入ガイドブック: デジタル庁が提供するアクセシビリティチェックリスト
- AAA11Y: 日本のWebアクセシビリティに関する情報サイト
- Understanding Accessibility:デザイナー向けのアクセシビリティの基礎が学べるサイト
結論
Webアクセシビリティは、すべての人がWebサイトを利用できるようにするための重要な取り組みです。
フロントエンドエンジニアは、この記事で紹介した基本的な知識を習得し、アクセシブルなWebサイトを構築するよう努める必要があります。
アクセシビリティは、後付けで対応するのではなく、開発プロセス全体を通して考慮なしでは対応できません。
「アクセシビリティファースト」の考え方を持ち、設計段階からアクセシビリティを意識することで、より効果的にアクセシブルなWebサイトを構築することができます。
アクセシブルなWebサイトを構築することは、ユーザーだけでなく、開発者自身にもメリットをもたらします。
アクセシビリティの高いWebサイトは、より多くの人々に利用され、SEOにも効果的です。また、アクセシビリティを考慮することで、コードの品質が向上し、メンテナンス性も高まります。
アクセシビリティチェックツールなどを活用し、継続的にWebサイトのアクセシビリティを向上させていきましょう。
まだまだこのサイトも万全とは言えないですが、気がついたところから対応していこうと思います。